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last update 04/Mar/2015

『アルキメデス方法の謎を解く』のページ

ここでは拙著『アルキメデス方法の謎を解く』(岩波書店.岩波科学ライブラリー232,2014年11月7日発売.1,300円+税)を紹介します.


(2015年3月5日記)

  • 前著『よみがえる天才アルキメデス』の改訂新版として準備した本ですが,新しいタイトルで発売することになりました.前著と重なるところも多いのですが,2つの点で大きく変わっています.
  • まず,アルキメデスの死について,ローマの将軍マルケルルスはアルキメデスを生かしておこうとしたが,何も知らない兵士によってアルキメデスは殺されたという二千年来の(!)定説を否定する新説を紹介しました.

    アルキメデスは実は意図的に処刑されたという説です.その大筋を紹介すればこうなります.さまざまな兵器でローマに抵抗した危険人物アルキメデスは,マルケルルスの命令によってシュラクサイが陥落したときに処刑された.しかしそれから二百年後の帝政初期にマルケルルスは慈悲深い人物として描かれることになり,マルケルルスがアルキメデスの死を悲しんだという「物語」が作られた.

    現存資料の矛盾を別の視点から解釈するところから出発するこの新説はなかなか魅力的です.もちろん,この新説が確実だというわけではありません.マルケルルス将軍はアルキメデスを殺すように命じたのか,そうでないのか,どっちだったのだと問うよりも,書き手の立場や意図に必ず左右される資料というものの本質と,その解釈について考える機会になればと思います.

  • 次に,アルキメデスが晩年の著作『方法』で,立体の求積のための統一的なアプローチを見出していたのか,という問題について,前著と正反対の立場をとりました.前著ではアルキメデスは近代の積分法に肉薄していたことになっていました.これに納得された方には申し訳ないのですが,著作『方法』の失われたページの数と,そこに書かれていたはずの内容を検討するうちに,どうしても以前の結論は維持できないということになりました.アルキメデスと近代数学の距離は意外に大きかったというのが本書の結論です.失われたページ数のカウントが,どうしてアルキメデスの数学に関係するのかは,本書第6章をご覧ください.なお,この結論は『天秤の魔術師アルキメデスの数学』でもっと詳しく解説しています.
  • 他にも小さな改訂や誤りの訂正,説明の追加はたくさんあります.追加(または訂正・増訂)した主なトピックスには,アルキメデスの父は天文学者であったということの根拠(実は意外に頼りない),金の冠(リース)に銀が混ぜられていることを見破った方法,アルキメデスが造船監督をしたという巨大船シュラコシア号の大きさの考察,1906年と08年のハイベアの調査の後,姿を消したC写本が1998年に再登場するまでの経緯(これは光文社の『解読!アルキメデス写本』にありますが,さらに最近明らかになった事情を追加しました),ほとんど判読不能なC写本の解読に大きな威力を発揮したコンピュータによる合成画像の原理の説明,といったものがあります.前著をお読みくださった方々も,本書を手にとっていただければと思います.

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