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最終更新 2019年1月24日(1月29日修正)

斎藤憲:日本科学史学会会長選挙のページ

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無償の業務と若手支援をめぐって

科学史学会の業務のかなりの部分は,全体委員を中心とする委員の方々の無償奉仕で支えられています.

現実問題として,業務に対価を払う余裕がないとも言えます.手当の支給とまではいかなくても,仮に30人の全体委員のA会費を免除したら,9000円(1人1か月あたりわずか750円ですが)の30倍で年間に27万円の収入減となります.年間予算が600万円の学会でそれは困難です.

別の言い方をすれば,種々の業務が基本的に無償奉仕で支えられてきたから,この人数の学会で,2つの学会誌を年に合計7回出すことができているとも言えます.

無償で学会のために仕事をして下さる方がいて,学会が滞りなく運営されていくならまだ問題は少ないでしょう(それでも,無償奉仕をものともしない特定の人々だけが運営に携わるというのは,実は問題です).

しかし,学会は慢性的な人手不足に悩んでいるというのが私の印象です.運営の中心になるのは,大学で専任教員として科学史のポストについている人ですが,そういうポストは減少傾向にあり,また大学教員が以前より多忙になっていることもあって,学会の運営にかかわってくれる人がなかなか見つかりません.

もちろん,大学教員でなくとも,学会の業務を引受けて下さっている方は少なくありません.大変有り難いことです.しかし全体として,人手不足は否めません.20世紀からずっと委員を続けている方々が少なくないのは,人手不足の反映でもあります.

人手が足りないなら,学会の業務そのものを減らすか,会費を値上げして,必要な経費を支払えるようにするか,ということになります.まずは,学会運営にどれだけの業務があって,どのように分担されているのか,どこに経費がかかっているのか,それぞれの業務を縮小・廃止するとどのような影響があるのか,といったことを綿密に調べなくてはなりません.

ところが,全体委員はそれぞれの仕事に手一杯で,そういう調査をする人手を見つけるのが困難です.しかし会員数の減少傾向は21世紀に入ってずっと続いていますし,会費は,今の会費でも高いという声もあり,値上げは難しそうです.そうなると,業務の縮小は避けて通れないかもしれません.

会員が増えればかなりの問題が解決しますが,そのためには,学会が魅力的でなくてはなりません.それは,結局何らかの新たな企画・活動を伴うことが多く,人手不足の問題に最初に突き当たります.そのためにも,現在の業務の再検討は是非必要だと思います.そのためには臨時の委員会を立ち上げる必要がありそうです.

会長としての任期のうちになぜそれをしなかったかと言われそうです.その理由(言い訳)の一つは,年に4回しか開かれない全体委員会では,処理しなければならない議題が多く,新たな委員会を立ち上げる議論をする時間的余裕がなかったということです.とくに,学会誌への苦情は学会の根幹にかかわる重要な問題だと私は考えたので,その対応が先になったということもあります.

無償奉仕で「あるべきだ」という考え

さて,人手とお金が足りない話なのに,ここで私は全体委員会に根強い無償奉仕文化を問題にしたいと思います.無償奉仕でやっと学会が支えられているのに,それを問題視してどうするか,と言われてしまいそうですが,無償奉仕を要求するから委員のなり手がなく,会員が集まらないという問題があるように思います.

2017年に会長に当選して,正式に就任する総会の前日,新旧合同の全体委員会で,若手研究発表会と科学史授業セミナーの企画の話をいたしました(この企画は秋に実施しました).その時,せっかく会員が集まるのだから,学会に関する意見や要望を聞く良い機会と考えて,お昼休みも集会を開きましょう,と提案しました.これは実施されたのですが,この提案のときに,外に昼食に出なくていいように,集まった会員にお弁当を出しませんか,と提案したところ,旧全体委員の木本さん(このときの会長選挙の立候補者でした)が,「学会にかかわるといいことがあると思われるのはよくない」と発言されました.簡単に言えばお弁当を配るなんてもってのほか,というお考えでした.

会員の声を集めることは大事です.ただやみくもに,「意見を言ってください」だけでは,なかなか意見は集まりません.集会に足を運んでくれる会員は,会員の中でも,学会への関心やかかわりが比較的深い人が多いわけですから,その人たちに,お昼の時間を割いてもらうために,弁当を用意しよう,私はそう考えたのですが,長年学会の運営にかかわってきた方が,それはいけないと考えるというのはカルチャーショックでした.

セミナーの昼休みに,学会運営に関する懇談会を開き,議論に参加してもらうために,参加者にお弁当を支給するという提案です.日曜日の一日を割いて,交通費を使って,セミナーに来るわけです.たとえお弁当が無料でも,儲けが出るわけでもありません.しかし,木本さんは,弁当の支給はいわば倫理的哲学的にいけないのだ,とお考えでした.

ここまで明確でなくても,学会にかかわる仕事は無償奉仕で当然,という考えはかなり根強いようです.しかし,これこそが,若手会員が減少している理由の一つではないでしょうか.

業務の見直しを

もちろん,学会誌の編集委員に手当を払うことは財政事情から出来そうにありませんし,編集を外注したら学会の意味がありません.しかし,単純労働は可能な限り外注して,委員の仕事は,学会誌の編集などに絞りこむべきでしょう.

まず現在の業務を,無償奉仕で全部維持するのだという考えは捨てなくてはなりません.必要な業務はどれか(やめていいものはどれか),経費を払って依頼してもいい業務はどれか,残さねばならない業務はどれか,検証して,どのくらいの会費でどれだけのサービスが会員に提供できるかを検討する必要があります.

何だか具体性を欠くといけないので,具体例をあげます.科学史通信を紙で印刷するのをやめて,PDFのメール配信にしてしまう.どうしても紙で受け取りたい会員には発送料をお願いする.通信の中身も,今のように綺麗にレイアウトするのはやめて,ただ記事を並べる形にする.もちろんレイアウトしにくい今のサイズはやめて,A4の一段組にする.紙で来るものよりも,メール添付,あるいは学会ホームページにログインして読むものの方が,必要な時に探し回る必要がなく,かえって便利という意見もあります.

このような意見が全体委員会から出てこないのは,少し不思議です.

若手支援との関係

無償奉仕問題に戻ると,無償奉仕文化は,若手支援への消極性とつながっているようです.若手会員に,たとえば遠方で開かれる年会で研究発表するときに交通費を支給するといった考えは,古参委員にはないようです.年会の長時間枠(40分の発表枠)があまり活用されていないので,発表者に交通費を支給したらどうか,と昨年10月の全体委員会で提案したら,「その理由は何ですか」と質問されました.会議の時間が終わりに近づいていたので,議論している時間がなく,提案を取り下げました.

私には分からなかったのですが,学会は,若手に発表する場を与えるという恩恵を施しているのである,という考えが背後にあるようです.すると,そういう機会が与えられていることに感謝して学会の仕事を(無償で)引受けるべきだ,という無償奉仕の議論にもつながるわけです.ここまで明確にそういう考えを持つ人は少ないにしても,若手支援に学会の経費を使うことに抵抗感があることは事実のようです.

しかし,日本数学会は今年度から,学振の特別研究員に応募して採用されなかった若手会員を対象に,年30万円が支給される奨励研究生を募集しています(定員10名).このことをツイッターでつぶやいたら,80回以上リツイートされました.分野を問わず,若手研究者は苦しんでいるわけです.科学史学会で30万円は無理ですが,たとえ3万円でも5万円でも,奨励研究費を支給したら,大いに歓迎されると思います.

発表の機会を与えていることは確かに事実でも,発表の機会は他にもあります.科学史をやっていて,科学史学会に入っていない若手が最近増えているという話も聞きます.若手が入ってこなければいずれ学会は消滅します.支援はしない,無料奉仕は当然,では学会の将来が不安です.

議論が散漫になりました.私の考えは(1)無償奉仕で今の業務を維持するのは無理だから,すべての業務を再点検する.(2)単純作業にはお金を払う.(3)若手会員の支援にも予算を使う,ということになります.これらすべてにとって障害になるのが「無償奉仕文化」だと思うのです.


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本ページ更新前の文書(2018年11月8日にアップロードしたもの)

文章を見直しましたので,このページから削除しましたが,資料として残してあります.基本的な考えは変わっていません.